防犯ブログ
- 窃盗
2022年05月27日
撤去自転車 勝手に取返したら逮捕、なぜ?
放置禁止区域に駐輪して撤去された自分のマウンテンバイクを自転車保管所まで取り返しに行った男が逮捕された。
容疑は無期または6年以上の懲役と刑罰が重い「強盗致傷罪」だった。なぜか――。
どのような事案?
男のマウンテンバイクが撤去されたのは今年3月2日のことだ。男はその日のうちに大阪市内の自転車保管所に電話をかけ、返すように求めたうえで、30分後にタクシーで乗り付けた。トラックの荷台から下ろされていた放置自転車の中から自分のマウンテンバイクを見つけると、勝手に解錠して乗り、走行させて去ろうとした。
男は2人の男性職員に制止されたことから、彼らの顔や頭を肘打ちするなどして軽傷を負わせ、そのままマウンテンバイクで逃げた。職員が防犯登録を控えており、捜査の結果、男は5月18日に逮捕された。「自転車を取り返したことは間違いないが、肘が当たったかどうかは覚えていない」と容疑を否認しているという。
「自分の物」でもアウト
もっとも、放置自転車とはいえ「自分の物」だし、単に撤去保管料を支払わなかっただけだから、男は暴行罪や傷害罪にとどまるのではないかと思う人もいるだろう。しかし、刑法には次のような規定がある。
「自己の財物であっても、他人が占有...するものであるときは...他人の財物とみなす」
実際の所有関係を問わず、「占有」という事実上の支配状態それ自体を保護しようとしたものだ。貸した自動車を無断で借主から取り返した持ち主に窃盗罪の成立を認めた判例もある。
盗まれた自転車を取り返した場合も同様だ。目の前でまさに犯人が乗っていこうとしていたのであれば問題ないが、何ヶ月も経ってたまたま街なかで見つけたからといって、勝手に取り返したら窃盗罪に問われかねない。第三者に転売されている可能性もあるので、トラブルに巻き込まれないためにも、警察に通報すべきだ。
窃盗罪が強盗致傷罪へと発展
今回のケースも、自転車保管所の職員らは大阪市の条例に基づいて男のマウンテンバイクを正当に撤去し、保管していた。彼らに無断でこれに乗って行こうとした男は、それだけで窃盗罪に問われることになる。しかし、刑法には「事後強盗罪」と呼ばれる規定がある。次のようなものだ。
「窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる」
本来、強盗罪は、先に相手の反抗を抑圧する程度の暴行・脅迫を加え、次いで金品を奪った場合に成立する。しかし、盗んだあとに気づいた被害者にそうした暴行・脅迫を加えた場合でも、取り返されないようにするためなどであれば、実質的には強盗と変わらない。そこで、事後強盗罪が設けられている。
この結果、職員らに肘打ちしたとされる男は、次に事後強盗罪に問われることになる。しかも、軽傷とはいえ彼らを負傷させているので、法的にはさらに刑罰が重い強盗致傷罪にまで発展することになる。そのため、男はこの罪名で逮捕されたというわけだ。万引き犯が店を出たところで私服警備員にとがめられ、殴ってケガを負わせて逃げるといったケースも同様だ。
もっとも、強盗致傷罪は起訴されたら裁判員裁判になるし、罰金刑もない。暴行の態様が軽微であるなど、事案の内容に比して刑罰が重すぎる場合もある。そこで、検察の実務では、処分の段階で「窃盗罪+傷害罪」という形で事件を分断し、示談状況などを踏まえて起訴猶予にしたり、略式罰金で済ませたりすることがある。今回のケースもそうなるかもしれない。(了)
<5/21(土) 9:38 前田恒彦元特捜部主任検事より>
最初に記事を目にした時、撤去された放置自転車を保管所に取りに行った人が、なぜか逮捕されてしまったという内容かと勘違いしましたが、撤去保管料を払わなかっただけでなく、制止した職員に顔や頭を肘打ちさせるなど暴行したことで逮捕されたというものでした。
仮に自分の物とはいえ、何らかの理由で管理、保管されている場合は、正式な手続きを経た上で持ち出さなければならないということです。
盗まれた自分の自転車を別のところで見つけたのでそのまま家に持ち帰る、一見すると問題のない行為のようですが、その盗まれた物が保護された状態にあった場合、それを無断で動かすことは窃盗罪に問われる可能性があるようです。
転売されていた場合、購入した人からすれば自分の自転車が盗まれたということになりますから、確かにトラブルを避けるためにも早計な行動は避けるべきです。
また、今回の件では、自転車の防犯登録の効果がありました。
本来期待された効果ではないかもしれませんが、自転車の持ち主特定に役立ちました。
自転車を購入する際、販売店では防犯登録は義務であると言いながら、購入者が登録料を支払うことを拒否すれば登録しなくても良いという現状に問題があるような気がします。
防犯登録を義務にするなら、代金の中に登録料を含めて販売するか、登録しなければ販売できないような仕組みに変えるべきでしょう。
防犯登録した内容を公開、閲覧できるようにすれば、仮に犯罪者が盗んだ自転車を使用しようとしても、本来の持ち主と異なるため躊躇することになれば、結果として盗みにくくなります。
また、転売の際も同様で、例えばネットオークションなどに出品されている自転車を購入しようとした人が、事前に防犯登録の情報を見ることができれば、盗品かどうかの確認ができ、犯罪者が転売しにくい環境になります。
所有者が自分で工夫したり、お金を掛けたり、個別に防犯対策を講じることは言うまでもなく大事なことです。
それと同時に、社会や法律、制度なども整備し、犯罪者が活動しにくい環境を作り上げることで、犯罪の抑止力になり得るのです。