防犯ブログ
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2023年12月22日
被害者の犯人さらし 違法か? 適法か?
人気リアリティ番組「テラスハウス」に出演していた元キックボクサーで、タレントの宮城大樹さんが、高級自転車の盗難被害にあったとして、防犯カメラによる犯行映像をX(ツイッター)で公開した。
盗まれたのは、外国産の高級自転車「MATE X」。宮城さんは9月4日深夜に「防犯カメラを確認したところ、この人が犯人です。僕の自転車返してください」と呼びかけ、男性の容貌のわかる動画をXにアップした。
宮城さんによる投稿は拡散し、車体につけていたという「AirTag」(位置情報がわかる防犯グッズ)の情報も奏功したのか、最初の投稿から24時間たたずに自転車が見つかったことを報告している。
映像では、赤い服を着た男性が、自転車を気にしながら近くに座ったり、乗り去る様子が捉えられている。
今回だけでなく、万引きなどの犯罪でも店舗が「犯人さらし」するケースは少なくない。
しかし、盗難の被害者だとしても、「犯人」の画像や犯行の様子の動画をSNSにアップする行為には注意が必要かもしれない。防犯カメラとプライバシー権にくわしい小林正啓弁護士に聞いた。
●「犯人」を特定できる画像をSNSにアップすることは名誉毀損の問題に
――「犯人」の容貌や盗難の様子を映した動画・画像をSNSで公開すると、どんな問題が起こりえるでしょうか
前提として、公開された動画・画像が、窃盗の現行犯を撮影したもので、容貌から特定の個人を識別できるものだとして解説します。
そのような画像を公開することは、犯人であっても、社会的評価を低下させるものなので、刑法上の名誉毀損罪や、民法上の名誉毀損が成立する可能性だけでなく、プライバシー権の侵害となる可能性もあります。
ただし、名誉毀損は、以下の3つの要件をすべて満たせば、正当な行為(違法性阻却事由)と認められ、適法となります。
・公共の利害に関する事実に係るものであること(公共性)
・その目的が専ら公益を図ることにあったと認められること(公益目的)
・真実であることの証明があったこと(真実性)
今回のケースでは、真実性の要件を満たす前提なので、残りの問題は公共性と公益目的になります。
SNSへの投稿は、犯罪検挙が主たる動機であり、被害品の回復という目的とともに、犯人逮捕、同種犯罪の防止といった公共の利益の実現を目的にした行為とみることは可能です。
ですから、公共性・公益目的の要件を満たすとする見解がありえます。
宮城大樹さんのSNS投稿は、すべての要件を満たすので、適法となりえるという結論になります。
●「犯人さらし」どう考えればいい?
――「犯人さらし」は、必ずしも「公益目的」といえない場合があると思います。
たしかに、こういった「犯人さらし」の画像に正当性は認められず、名誉毀損が成立するとする見解もあります。こちらの立場では、犯罪被害者といえども、犯人の検挙や被害品の取り戻しは警察などに委ねるべきで あって、自ら犯人捜しをすることは許されず、公共性や公益目的を欠くと主張することになります。
どちらの見解が正しいかについては、法律家の間でも意見が分かれるところだと思います。
――小林弁護士のお考えはどちらに近いでしょうか
私見としては、「犯罪被害者といえども、犯人の検挙や被害品の取り戻しは司直に委ねるべきである」との考えが、わが国の法秩序や社会の安全を守ってきた面があることは否定できないと考えます。
しかし、この考えはあくまで社会的・倫理的規範(モラル)の問題であって、法律的な規範とまでは言い難いところです。
したがって、犯罪の被害者が、犯人の容貌をネットに公開して検挙につながる情報を求める行為は、モラル上は問題なしとしませんが、法律上は、名誉毀損の違法性阻却事由を直ちに否定するものではない、と考えます。
<9/11(月) 10:02配信 弁護士ドットコムニュースより>
被害者による犯人さらし、個人的には被害者は自分の被害を回復するための手段として、権利を有しているように思います。
しかし、記事にもあるように、犯人の検挙や被害品の取り戻しは司直に委ねるべきで、その考えが日本の法秩序や社会の安全を守ってきた面があるという意見も納得できるものです。
名誉毀損は、3つの要件(公共性・公益目的・真実性)をすべて満たせば、正当な行為と認められて適法になるようです。
犯罪被害の程度によっては、被害者が期待するほど警察が捜査活動に注力できないケースもあるでしょう。
被害者が時間と労力とお金を掛けて自ら犯人特定のために行動しようとすることは理解できます。
もし、防犯カメラの映像等で間違いなく犯人だと特定できるものを手に入れられたら、警察に情報を渡さずに自ら公開して犯人に反撃したいという気持ちも分かります。
ただ、その行為には上記のような適法かどうかの判断に加えて、えん罪被害を生まないための注意も必要です。
犯人だと考えていた者が犯人ではなかった場合、犯人に似ている、特徴が似ていることで別の人が犯人に仕立てられてしまう場合なども考えられます。
また、犯人が逮捕され、裁判に掛けられ、罪を償った後もその映像がネット上に残っている場合、事件後も犯人を長く苦しめ、刑罰以上の損害を与えることにもなりかねません(基のデータを削除してもSNS等のネット上で半永久的に映像が残ることもあります)。
犯人さらしを行う場合、安易に行うのではなく相当の覚悟が求められます。
えん罪等のことを考えなければ、被害者が声を上げることによって加害者(犯人)は気持ちよく犯行ができなくなり、それが犯罪の抑止力につながり、結果として多くの人のメリットになります。
犯人さらしは一概に正しいとか間違っているとか簡単に判断することは難しく、立場が変わると見方や考え方も変わっていきます。
被害者が冷静な判断ができるのなら、自ら犯人さらしをせずに入手した情報を警察に提供し、犯人特定、犯人逮捕を任せる、もし警察が動いてくれない場合のみ、自ら行動する、というのも一つのパターンではないでしょうか。